ILCから生まれる
さまざまな技術

物理 / 測定器イメージ
超高性能の加速器、国際リニアコライダー(ILC)には、数多くの、高度な先端技術が必要とされます。
素粒子を高エネルギーに加速するために使われる、超伝導高周波加速空洞の技術。
加速された粒子の衝突反応を記録する、優先端の測定器技術。
ビームをナノメートルサイズまで絞り込み、やはりナノメートルの精度で制御する技術
ーILCのプロジェクト全てが、挑戦的技術の集合体なのです。
これらの先端技術を実現し、さらに精度を上げていくために、世界中の研究者たちがR&D に取り組んでいます。
同時に、産業界では、これら超ハイテク機器の大量生産の準備が進んでいます。
ILCから生まれる技術が、私たちの暮らしに活かされる日は、遠くありません。

今までも加速器は様々な分野で役立っています。

車は加速器でできている?

加速器からつくられる粒子のビームは、新素材の開発や強化、物質の表面処理などに使用され、工業技術の向上に深くかかわっています。一台の自動車を構成する部品は約3万点。鉄鋼、非鉄金属、ゴム、プラスチック、紙などさまざまな材料が各部品に用いられています。これらの部品の開発・生産過程の多くで加速器が使われています。

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病気を見つける・治療する

加速器が設置されている施設で、もっとも数が多いのは病院です。日本国内だけでも1,000以上、世界では1万台に近い加速器が、診断や治療に活躍しています。電子や陽子、あるいはこれより重いイオンの粒子を加速すると、物質を電離する能力を持つ放射線が発生します。この放射線をうまくコントロールすることで、人体の内部の構造や機能を傷つけることなく検査したり、がんなどの治療を行うことが出来るのです。

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減らない電池を目指して

燃料電池はクリーンなエネルギー源として期待されていますが、実用化までには未だ開発すべき多くの項目があります。特に問題になるのが、運転に伴い副生成物として発生する水の効率的な除去です。ここで活躍するのが加速器で作る中性子ビーム。燃料電池を構成する素材の中の水の動きを可視化できます。中性子ビームを照射して、燃料電池内部の水の動きをリアルタイムで観察し、高性能の燃料電池開発につなげることができます。

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美術館でも加速器?

ルーブル美術館に保管されている古代エジプトの像も加速器を使って分析しています。加速器で生成したイオンのビームを美術品に照射し反応を見ることで、作られていた年代、使用されている塗料や材料の種類、過去の修復の跡などを、作品に傷をつけることなく調べることができます。

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薬をデザインする

タミフルやリレンザといった有名なインフルエンザの特効薬をはじめ、近年、加速器を使って設計された薬が病気の治療に役立てられています。薬は、酵素等のたんぱく質に作用します。酵素は、ウイルス等の活性化や増殖に大きく関わっています。そこで、そのタンパク質の構造を、加速器のつくる「放射光」で詳しく解析し、増殖をつかさどる因子などを抑制する薬を設計するのです。

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インターネット社会は素粒子物理学から始まった

wwwは、現在のインターネット全体のルールのようなもの。wwwの取り決めによって、私たちはウェブページ間をジャンプして閲覧したり、画像や動画を楽しむことができます。wwwは、素粒子物理学の研究者たちが研究の情報を共有するためのツールとして開発されたのがはじまり。開発者の意向で、全世界に無償で開放されたため、爆発的に広がり、現在のインターネットの形が出来上がったと言えます。

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核のゴミを処理する

世界の発電量の約15パーセントを供給する原子力発電。発電段階でCO2を全く排出せずに大量の電力を安定供給できるという大きなメリットがあります。一方で、半減期が数万年の長寿命核種を含む、放射性廃棄物の処理方法が問題になっています。そこで注目されているのが「加速器駆動未臨界システム(ADS)」です。加速器で作る中性子ビームを使って、半減期が数百年の核種に変換することができ、地層処分の隔離期間を短縮することが可能になります。加速器を停止させれば炉も停止するため安全性も高く、世界各地で実用に向けた研究が進んでいます。

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安全を守る

橋や高速道路の支柱など、鉄筋コンクリート構造物の寿命を決定づけるのは内部の鉄筋の状態です。しかし、腐食などの老朽化は表面からは見えません。そこで活躍するのが物質を投下する能力に優れている中性子ビームです。加速器で作る中性子ビームを使えば、コンクリート中の水分の分布や移動を非破壊で観察できます。更新時期の迫った鉄筋コンクリート構造物の劣化診断や、構造物の耐久性向上技術は、安心して暮らすために必要となる、危険の予測や防御にも役立てられます。

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医療応用

ガンの早期診断の強力なツールとして、現在注目が集まっているのが「陽電子放出断層撮影機(PET) 」。PETは、反粒子の研究から生まれたもので、臓器内における化学反応の視覚化を実現しました。また、「陽子線療法」は、精密に制御された陽子線を、ガン等の服傷部位にあてる放射線治療法。これまで治療の困難だった部位の治療でも、高い効果を上げています。

現在、このような診断、治療には、大型で高価な機器が必要ですが、ILCの「超伝導高周波加速技術」 を応用すると、装置の大幅な小型化や消費電力の削減が可能になります。また、加速器のフィードバック技術を使えば、患者の呼吸に放射線照射を同期させて集中照射し、周辺の正常組織には影響を与えずに治療ができます。さらに、超伝導加速伎術を使って発生させる次世代X線は、生体内反応やタンパク質構造の解明等に役立ち、新薬の開発にも期待がかかります。

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コンピューター技術

ILCや、現在稼働中の世界最大の加速器、大型ハドロン・コライダー(LHC)に必要なデータ転送速度は、全世界の通信量に匹敵する程膨大です。このニーズに対応するために、最先端のコンピュータ技術や通信技術、素粒子物理学者が開発したグリッド・コンピューティング・ソフトウェアが重要な役割を果たしています。

これらのコンピューター技術もまた、他分野で活躍しています。欧州の研究所で開発された「MammoGridデータベース」には、約3万件の乳房X線撮影像(マンモグラム)データが保存されており、医院や医師がそれらの情報を共有。患者の有効な治療に役立てられています。

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未来の「道具」を創る

科学プロジェクトへの挑戦は、産業プロセスの効率化や、新技術の開発、それに伴う経済の活性化につながります。

ILCでは、微小な粒子ビームを確実にモニタリングし、的確な修正を迅速に行う必要があります。このために開発される機材は、高度な電子集積回路の製造設計に役立つと考えられており、産業プロセスの大幅な改善や、ナノテクノロジー製品の品質向上に弾みをつけることでしょう。

また、電子ビームリソグラフィーは、コンピューターの小型・軽量化に、加速空洞の研磨技術は、金属工業におけるコスト削減や、より深い素材特性の理解に役立ちます。大量生産される超伝導空洞やその周辺機器の製造に必要とされる高度な専門技術が、超伝導技術全般に応用されることもあるでしょう。ILCの電子源技術は、電子顕微鏡の性能を向上させ、磁気ディスク産業を革新することも期待されています。さらに、測定器の技術を貨物コンテナの検査に応用すれば、内容物の精査が容易になります。素粒子物理の研究成果が、税関で活かされる日も、もうすぐかもしれません。

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他分野で活かされるILCの技術

シンクロトロン加速器でのX線散乱によるタンパク質構造の可視化加速器から生まれる「放射光」はこれまで、様々な科学分野で応用されてきました。例えば、米国の放射光施設ALSでは、鳥インフルエンザのウィルス構造や、ヒト受容体の特性を解明しました。これら放射光の分野にも、ILCの技術が活かされています。

ハイパワーで指向性の強い第4世代の放射光「自由電子レーザー(FEL)」は、リニアコライダーの研究から派生した技術。現在、米国や日本、ドイツで建設が進んでいます。エネルギー回収リニアック(ERL)は、核物理学や物質科学、化学、構造生物学、環境科学など、幅広い分野で大いに応用が期待されている次世代放射光源、ILCの超伝導技術は、ERLの小型化と大幅なコスト削減に役立ちます。

さらにILCの技術は、陽子や原子核の加速にも応用できます。陽子加速器から生成される核破砕中性子源は、生物学分野の研究などにも幅広く貢献しています。また、物質科学分野に応用することにより、医療用インプラント製品の開発、金属の腐食防止、飛行機の軽量化など、さまざまな場面での活躍が期待されています。

他分野で活かされるILCの技術イメージ

Image: SLAC
シンクロトロン加速器でのX線散乱によるタンパク質構造のイメージング


環境・エネルギー

超伝導技術を使って生成する、強度のガンマ線や中性子ビーム。ガンマ線は核廃棄物の特性分析に使うことが可能です。また、中性子ビームを核廃棄物に照射すると、不安定な原子核を安定な原子核に変えることができると考えられており、アジアの共同研究チームによる研究開発が進められています。

高周波電力システムは、環境災害の遠隔化学分析に、ビーム制御の高精度モニタリング技術は、地震予測システムに活用できます。

ILCの技術は環境分野での活躍も期待されているのです。

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